立石の事 當神社々頭海中の雙巌(さうがん)を称して立石と云ふ、 古くは天の岩門(いはど)とも称せしが、近世双巌の別種なるを 神人(しんじん)の異性に擬して、伊弉諾(いざなぎ)、伊弉冉(いざなみ)二尊の 夫婦岩と敬称するに至れり。 然して、大なる岩は古生層(こせいさう)の最下部たる輝石(きせき) 及び斜長石(しゃちゃうせき)の碎片(さいへん)より組成し、 緑泥質物(りょくでいしつぶつ)を交雑するを以て、 外観は甚だ緑泥片岩(りょくでいへんがん)に類似し、 高(たかさ)二丈九尺、周囲十三丈二尺を有す。 小なる岩は方解石質(ほうかいせきしつ)のものにして其の根は大岩と同質なり、 高一丈二尺、周囲三丈六尺にて双岩の距離は三間を有せり。 蓋し、此の種類の岩石は地質学者の御荷鋒統の地層と称するものに属し、 今を去ること幾千万年の昔、人類が固より其の他の哺乳動物の如きは 未だこの世に現はれざる時代に海底に沈殿して成りし所のものなりと云ふ。 而して此の双岩に懸けたる大注連縄は、此の地の垢離(こり)かき場たる事を示し、 且つ禊場を清潔にするの禁禦(きんぎょ)とせり。 此の付近に花岩(はないは)、鶏冠石(とさかいは)、屏風岩(べうぶいは)、 獅子岩(ししいは)、烏帽子岩(えぼしいは)、鯨岩(くじらいは)、来迎岩(らいこういは)等 の奇巌及び乳母の懐の岩窟あり。 此の邊の石は二見石(ふたみいし)とて和(やはら)かく、 白く清きは石帯(せきたい)等に用ひし事あり云ひ傳ふ。
考察
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