「蛇」
日本の蛇信仰より
吉野裕子

古代の事柄を考察していくといつもいつも突き当たる2つの壁。
それは、鳥信仰と蛇信仰です。
あまりにもすそのが広すぎて、とっても難解でした。
今回、吉野裕子氏の「蛇」日本の蛇信仰という本を発見し、
その解説が割と解かり易かったのでここにメモ。

蛇信仰は世界各地にその存在を残しています。
頭の形、長い一本足(足が無い)が、太陽神にも繋がっていそうです。
またトグロの姿は円錐山の山信仰、交尾の姿は注連縄にと、
信仰物に、次々と関係しそうなのです。
まず、本中にある「蛇に見立てられた植物の一覧」から

静態
男根状
蒲葵(びろう)、檳榔(びんろう)・棕櫚(しゅろ)


梛(なぎ)(竹柏)・黄心樹(おがたまのき)朴木(ほおのき)


竹・松・杉・檜など

動態
蛇行状
藤・籐(とう)など


蔓植物類

蛇の頭
相似
ホウヅキの実

特殊例 梶(かじ)(解字法による)

蛇象徴の植物群の中では蒲葵が抜群に
神聖視され、その蒲葵葉の代用が扇となり、
蒲葵葉繊維の代用品が菅・藁であって
それらからできた加工品の蓑・笠・縄も
祖霊の蛇の象徴となる。


蒲葵扇 檜扇



紙扇


八手葉・烏扇の葉


蒲葵 蒲葵葉
笠・脛巾(はばき)


蓑・笠





箒(ははき)

カカ、ハハ、ヌカともに
蛇の古語と推測されている
その一覧
カカ カガチ 大蛇(カガチ)



ホウズキ(アカカガチ)


カカシ 大蛇(山カガシ)



案山子(カカシ)


カガミ 蔓植物(蘿摩カガミ・白?カガミ)



ホウヅキ(カガミゴ)


カガヤマ 神名(香山戸臣神)


カカル 動詞(懸かる・掛かる)


カガフ カガヒ(?歌―歌垣)

ハハ ハハキリノ剣 羽々斬(古語拾遺)


ハハツキ ホウヅキ


ハハキ 神名(箒神・波波木神)


ハヤマ 神名(羽山戸神)


ハフ 動詞(這ふ)

ヌカ ヌカヅキ ホウヅキ


ヌカヒメ 蛇巫


ヌカゴ(ムカゴ) ナガイモの子


ヌカト 鏡作部遠祖

鏡は蛇の目、剣は蛇の尾その物実は蛇の頭と蛇信仰では考えられるようです。
その神鏡と蛇の関わりの伝承例。

タクハタノヒメミコ
伝承
伊勢斎宮皇女
書紀の
雄略紀
密通の嫌疑の話
「虹の起つ処を掘りて神鏡を獲」とあり、
大漢和辞典より
「虹。古へは竜の一種とし、雄を虹、雌を?という」
日本の古語に蛇をナガ・ナギといい
沖縄で虹をナギという。
アメノヌカト 書紀の
神代巻1書
天の磐戸
「鏡作部の遠祖天の糠戸には鏡を
造らしめ、」
斎宮と蛇 通海参詣記
鎌倉時代
「伊勢神宮の神は、夜毎、斎宮に通うらしいが、
その寝具の中に蛇のウロコが落ちているから
蛇ではないか」
神鏡と蛇 朝熊山縁起
空海の託宣の話
「・・・蛇常若有礼多久伝、禰宜の鏡を内外に
移す。・・・」
蛇が常にうるさいので、自分の鏡を伊勢神宮に
移すことにした。
鏡と梛 歴世女装考
山東京山著
江戸時代
「鏡台に守を掛ける、梛の葉、鴛鴦の羽・・」
伊豆権現の神木梛の木がでてくる。
熊野速玉大社の神木の梛の木である。
鏡のお守り。

上記伝承の4例が伊勢神宮関連であり、蛇との繋がりが強調されるならば
三輪山との共通が考えられる。


次に池に鏡を沈める祭祀があったようです。
これは蛇が好む水に返すものと吉野氏は考えるようです。
湖沼に円錐形の山の倒影がくっきり菱形にでる所が良いようです。
古鏡遺跡が発見された池沼一覧表
大場磐雄「祭祀遺跡」より抜粋

池沼 関係神社 所在地
鏡ガ池 出羽 山形県東田川郡手向村羽黒山
霊泉 湯殿山 山形県東田川郡東山湯殿山
神池 立石寺 山形県東村山郡山寺立石寺
小沼 赤城 群馬県勢多郡赤城山
鳳沼 武尊 群馬県利根郡武尊山
榛名湖 榛名 群馬県群馬郡榛名山
長者ガ池
石川県江沼郡東谷奥村今立
鏡ガ池 丹生都比売 和歌山県伊都郡天野村
文覚淵 熊野那智 和歌山県那智町
鏡ガ池 八重垣 島根県八束郡大庭村
蛇池
愛媛県越智郡乃万村矢田
鏡ガ池
福岡県企救郡山東村
鏡ガ池
福岡県田川郡鏡山村
鏡ガ池
熊本県阿蘇郡北小国村字原

蛇の語の変化
蛇目(カカメ)→鏡(カガミ)
蛇身(カカミ)→かがみ(蔓状植物)

ハハメ、ハハミ→ハミ→ハビ
         →ヘミ→ヘビ
             →ミ

鏡餅考
 鏡餅の鏡は実はヘビの意味で、二段重ねの餅はトグロを巻く蛇の姿であり、
上から見れば大小2重の輪であってそれはまさに「蛇の目紋」である。
蛇は宇賀御魂、穀神、年穀神、つまり歳神であり祖神である。

蛇巫と蛇祭祀
ヌカヒメ伝承
常陸国風土記
箸墓伝説
賀茂社創建
三輪大物主神と
丹塗の矢
神武天皇と蛇